最高裁判所第二小法廷 平成5年(オ)109号 判決 1996年9月13日
上告人
日本国有鉄道清算事業団
右代表者理事長
西村康雄
右訴訟代理人弁護士
秋山昭八
平井二郎
右訴訟代理人
荒上征彦
利光寛
増元明良
被上告人
小坂晋一郎
被上告人
山本治市郎
被上告人
福田禎
右三名訴訟代理人弁護士
市川俊司
服部弘昭
右当事者間の福岡高等裁判所平成二年(ネ)第二九六号、第三六二号賃金支払等請求事件について、同裁判所が平成四年九月二四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人秋山昭八、同平井二郎、同荒上征彦、同利光寛、同増元明良の上告理由第一点について
原審の適法に確定した事実関係の下においては、被上告人らの年休休暇の成立を認めた原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右判断は所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、原審の認定に沿わない事実に基づき若しくはその結論に影響のない部分について原判決を論難するか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
同第二点について
原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の認定に沿わない事実に基づき原判決を論難するか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)
《上告理由》
(平成五年(オ)第一〇九号 上告人日本国有鉄道清算事業団)
上告代理人秋山昭八、同平井二郎、同荒上征彦、同利光寛、同増元明良の上告理由
第一点 原判決は、労働基準法第三九条の解釈を誤り、また判例にも違背した違法があり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、取り消されるべきである。
一、一審判決の認定した本件の概要は、次の通りである。
被上告人ら(一審原告ら)は、昭和六〇年八月当時、いずれも国鉄(上告人日本国有鉄道清算事業団をいう。以下同じ)職員であって、直方自動車営業所において運転係(バス運転手)の職務に従事していた者であり、国労門司地方本部中央支部自動車分会直方班に所属し、被上告人小坂は同班班長、被上告人山本は同班副班長、被上告人福田は同班書記長であった。同人らは、いずれも同年七月二四日に同年八月五日の勤務につき年休を申し込んだが、当局は特段時季変更権の行使手続をすることなく、被上告人らの本来の勤務について予備勤務者の中から勤務指定がなされた。
これより先、国労は、同年六月二五日全国戦術委員長会議において、国鉄再建監理委員会の最終答申に抗議し、国鉄労働者の闘う決意を内外に示すとして、同年八月五日に職場で時限ストを実施すること等を決定し、国労門司地方本部は、同年七月二三日、右八月五日のストについて各支部闘争委員長に対し闘争指令を発し、同本部中央支部も、同日、自動車分会を含む各分会に対し、「スト対象者は、自動車乗務員(予備者、庫内を含む)を除く全組合員とする。」旨指令し、右指令は同支部から各分会、各班へ順次伝達され、国労直方班においても日勤者を対象とする始業時(午前八時四〇分)から一時間の時限ストを実施することが予定された。
これに対し、国鉄九州地方自動車部部長は、国労門司地方本部中央支部自動車分会執行委員長に対し、文書(<証拠略>)で違法な争議行為を実施した場合にはその指導者及び職員個人の行為に対して厳しくその責任を追求(ママ)せざるを得ない旨警告し、直方自動車営業所においても、右警告文の内容を掲示し、八月一日の点呼の際にその趣旨を口頭で告知した。直方自動車営業所では、スト対策本部長からの指示により、本件ストの前日の八月四日夜、被上告人小坂及び山本に対して、また連絡の取れなかった被上告人福田に対しては八月五日朝に、「本件ストに参加するようなことがあれば、正当な年休権の行使とはいえないので、年休を取り消して不参(無届け又は承認を与えていない日の欠勤)処理とする」旨それぞれ通告した。
ところで、被上告人小坂は、本件ストに先立ち、組合掲示板に「八月五日には集会を行うので、勤務者以外の者は参加すること。」とのビラを掲出し、被上告人らはストに際しての職場集会に参加したほか、次に述べるようにスト決行を指導したものである。直方自動車営業所では、午前八時二〇分ころから同営業所構内において、スト参加者を含む約五〇名が参加する職場集会が開催された。同営業所所長は、同職場集会参加者に対し、ハンドマイクで「当営業所構内での集会は一切認めません。集会を中止して直ちに構内から退去しなさい。」との警告を数回発したが、同職場集会参加者は、右警告を無視して午前九時すぎころまで集会を継続した。この間、被上告人福田は同集会参加者に対し、「八時三〇分から職場集会を始めます。」と通告し、「全員がストに突入した。」旨宣言したほか、同集会の司会・激励電報の紹介等をし、同小坂は同集会において、「分割・民営化は必要ない。」等演説したほかシュプレヒコールの音頭をとる等をし、同山本は同集会中メモをとっていた。次いで、被上告人ら三名は、同集会参加者らとともに同営業所二階事務室に上がり、同室内の会議室前付近から乗務員点呼場付近に集合したので、同営業所所長は、「本日の勤務者以外の職員並びに部外者は、業務に支障があるので直ちに事務室並びに営業所構内から退去しなさい。」「就労の意思のある職員は、直ちに復帰の手続きを取りなさい。」と数回通告した。その後同事務室内は一時騒然となったが、就労の意思のある職員は復帰の手続きを取り、被上告人らを含めそれ以外の者は、同九時三〇分頃には同事務室から退去した。
被上告人らは、バス運転手として交番勤務となっており、予め発表されていた八月五日の勤務割表によれば、被上告人小坂は午前五時二九分から午後一時一六分迄の一〇一行路に、同山本は午後〇時四五分から午後九時三〇分迄の一五行路に、同福田は午後一時一六分から午後一〇時三〇分迄の一六行路に乗務することになっていたが、前述したように、年休の申込があったので、その勤務はそれぞれ予備勤務者の中から代わって勤務指定されていた。
被上告人らは当日は全く勤務に就かなかった。
そこで国鉄は、被上告人らの各行為は公労法一七条に違反する違法な争議行為に参加したものというべきであり、本件年休は年休権の行使とは認められず、したがって、被上告人らは当日は行路の指定のない予備勤務(午前八時四〇分から午後三時五六分迄の勤務)として勤務を要することになるのに、一日勤務を欠き、不参となったとして、同人らに対し、本件賃金カットをするとともに、就業規則第一〇一条第一号、第六号、第一五号、第一七号に該当するとして国鉄法第三一条第一項第一号により、本件懲戒戒告処分に付した。
二、右に関する原審の認定も、次に記載するほかは、一審判決のとおりとしている。
1. 被上告人らも本件年休について時季変更権の行使があれば、それに従うつもりであったが、同人らに対する、ストに参加するようなことがあれば年休を取消して不参とする旨の通告は、時季変更権の行使としてなされたものではなかった。
2. 本件ストにより同営業所のバス運行に支障を生じたことは全くなかったし、事務部門の業務にも問題とされるほどの影響を生じてはいない。
3. 国鉄の行った懲戒処分の理由を削除した。
すなわち、原審は、本件ストによる影響が少なかったと判示し、国鉄の行った本件懲戒処分の理由をストについての処分ではなく、年休取得を理由とする処分であるとする点において一審判決と全く相違し、それ以外の事実認定については、一審判決とほぼ同じである。
三、一審判決は、本件年次有給休暇が成立したか否かについて、「年休権の成立の前後をとわず、労働者において年休権を成立させておきながら、年休権が成立しなかったならば負担したであろう本来の業務を阻害する意図をもち、かつ、現にその業務を阻害するに至る行為に出たときは、最早年休権が成立しているものとしてこれを保護する必要はないものというべきである。右とことなり、労働日のうち勤務時間外の時間については、年休権の成立の有無とは何等関係のない時間であるから、勤務時間外の時間における労働者の行為如何により有効に成立した年休権の効力が左右されるものではない。」としたうえ、「被上告人らは本件ストの日は本件年休を適法に取得し、本件ストと同時間帯に行なわれた職場集会等に参加して本件スト等の指導等の活動を行ったものであるけれども、被上告人小坂については、本件ストの時間帯は同被上告人の本来の勤務時間内であったものの、右行為から、同人が本来の勤務時間に就労すべき行路の業務の正常な運営を阻害する意図をもち、かつ、右行為に出たことにより現にその業務を阻害するに至ったものと認めるに足りる証拠はなく、被上告人山本、同福田については、本件ストの時間帯はいずれも同人らの本来の勤務時間内ではなかったのであるから、被上告人らの右各行為により本件年休の効力は何ら左右されるものではない」としている。
四、原判決も、右の第一審判決とほぼ同様の判断を示しているのであるが、右第一審判決のうち、被上告人らが「本件スト等の指導」を行ったという点を「本件スト対象者の激励」を行ったと改め、「本件ストにより直方自動車営業所のバス運行業務に支障を生じていない。またスト実施の時間も一時間に過ぎない。」との点、及び、「被上告人らは、その所属する事業場である直方自動車営業所において行われた本件ストの際における職場集会等に参加して、本件スト対象者の激励等の行為をしたものであるけれども、被上告人らと本件スト対象者とではその業務の内容が異なり、被上告人らの本来の業務であるバス運行に関しては何ら業務の阻害はなかったのであるから(なお、本件スト対象者である日勤者の担当業務に関しても問題とされるような業務阻害は生じていない。)、同人らの行為は、実質的にみるならば、他の事業場における争議行為の支援活動を行った場合とはほとんど異ならない」との点をその理由に付加している。
即ち、原判決は、被上告人らが行ったのは、スト対象者の激励であり、バス運行に支障がなかったのであるから、実質的には他の事業場における争議行為の支援であるという点を強調するほか、ほぼ第一審判決どおりに判断しているといえる。
五、いうまでもなく、労働基準法第三九条所定の年次有給休暇は、使用者が、雇用関係にある労働者に対し、一定の要件の下に一定の日数の労務提供義務を免除するものであるから、当然、それは使用者と労働者との間で平常の労使関係が継続していることを前提としているものである。したがって、平常な労使関係の停止、あるいはこれを阻害することを目的とする争議行為について、年次有給休暇を利用してこれに参加することは、認められるべきものではない。
もちろん、右のように言うことは、いわゆる年次有給休暇の自由利用と矛盾するものではない。それは、年次有給休暇が労働者の休養ないし業務からの離脱を目的とするものであって、その限りで休暇の利用目的を問わないというものであるが、休暇はあくまでも雇用関係にあり本来就労義務を有する者について一定の要件の下にその就労義務を免除するものである。しかるに、争議行為は、そのような雇用関係を停止し、就労義務を放棄するものであって、年次有給休暇の成立について、その前提となる状態ではないのである。
また、年次有給休暇は、休暇期間中の賃金が保障されている。労基法三五条等の休日や、勤務日であっても勤務時間外の時間については、労働者にとって労働義務のない自由な時間ではあるが、賃金の支払や保障のない時間である。したがって又、それは、労働者が何をしようと原則として自由な時間であり、年次有給休暇の日とは、本質的に異なるものである。
もし仮に、自己の所属する事業場等でなされる争議行為に参加するにあたり年次有給休暇の使用が認められるとすれば、労働者に、使用者から当日の賃金の支払を受けながら、使用者に対する争議行為を行うことを是認することとなり、平常な労使関係の継続を前提としている年次有給休暇の制度からみても、あるいは争議行為や組合活動に際して認められる労使関係における均衡の面からみても、到底認めることができないものである。
六、本件の直方自動車営業所事件と同様に、年次有給休暇を認められていた者が、自己の所属する事業場における争議行為(同じ電車区ではあるが、本人は検修職場に勤務する者であり、ストは電車運転職場でなされた。そこで当該年休請求者は自己の所属する事業場での争議行為ではないと主張していた)に参加したため、賃金カットを受け、年休の成否が問題となった事件(以下津田沼電車区事件という)について、最高裁第三小法廷平成三年一一月一九日判決(平成二年(オ)第五七六号事件)は、「上告人は、前記争議行為に参加しその所属する事業場である津田沼電車区の正常な業務の運営を阻害する目的をもって、たまたま先にした年次休暇の請求を当局側が事実上承認しているのを幸い、この請求を維持し、職場を離脱したものであって、右のような職場離脱は、労働基準法の適用される事業場において業務を運営するための正常な勤務体制が存在することを前提としてその枠内で休暇を認めるという年次有給休暇制度の趣旨に反するものというべく、本来の年次休暇権の行使とはいえないから、上告人の請求に係る時季指定日に年次休暇は成立しないというべきである。」と判示し、この理由を認めている。
七、ちなみに、右津田沼電車区事件と本件の基本的事実を次に対比してみる。
<省略>
右によれば、本件の基本的事実は、津田沼電車区事件のそれとほぼ共通であり(年休申込みの態様等や取消通告の有無の点では、本件の方が濫用性が強い。)、右最高裁判決の判示は、本件については一層強く妥当するというべきであって、到底、本件は年休権の正当な行使とみるべきものではない。
八、原判決は、本件ではスト対象者と被上告人とではその業務内容を異にし、被上告人の本来の業務であるバス運行に阻害がなかったのであるから、他の事業場における争議行為の支援活動を行った場合と異ならないことをその理由に挙げているが、誤りである。即ち、
(1) 右津田沼電車区事件においても、スト対象者は列車乗務員であり、当該年休請求者は検修係であって、同一事業場内であっても、その業務内容を全く異にする者である。また、当該争議行為によって本来の業務である検修業務そのものには影響を生じるものではない。また、労働基準法上の取扱いでは同一事業場とされておりながら、年休についてその申込手続や時季変更権の行使が職種ごとに区別して取扱われる点についても、右津田沼電車区事件も同様であって、仮に検修係の所要人員に余裕があっても列車乗務員に余裕がなければ時季変更権を行使することとなる。したがって、本件もまた、右最高裁判決と同様に年休が成立しないとされるべき事案である。
(2) 更に、原判決は、被上告人らの行為は実質的には他の事業場における争議行為の支援活動と同じであるとするが、本件の事実関係を曲解するものと評せざるを得ない。いうまでもなく、事業場なるものは多様な職種から構成され、また管理者から一般従業員に至る各段階の組織もあり、それらが一体となって社会的に一箇の事業の推進体として機能しているものである。本件のような自動車営業所においても、自動車の運転をする者もあれば、これを整備する者もあり、運賃を収納したり貸切自動車などの業務を行う者もあれば、日常の業務の運行に伴う事務を行う者や運行計画に携わる者もいるなど、各種の職種や業務を多数の者がそれぞれ分担することによって一箇の事業場を形成し、機能しているのである。したがって、仮にその中の一部の部署においてストライキが行われても、他の部署の業務も平常とは異なる処理を求められるし、また事業場全体としての業務に支障を生ずることになるのである。即ち、本件は形式的にも実質的にも被上告人らの所属する事業場における争議行為であって、原判決のように、職種ごとに事業場を分断し、実質的に他の事業場の争議行為などとすることはできない。
(3) また、被上告人らは、前記一、二に述べたように、直方自動車営業所における国鉄労働組合の組織の中枢にあって、本件スト以前の準備段階からストの終了後に至る争議行為の全段階に参加し、しかもそれを推進していたものである。原判決のように、これをもってスト対象者の激励という争議行為の支援活動であるとするに至っては、争議行為などの団体行動の何たるかを全く理解していないか、あるいは被上告人らの供述に惑わされ、殊更これを支援と誤認したものというほかない。
即ち、本件は、被上告人らが自ら所属する事業場の争議行為に参加し、これを指導したもので、まさに争議行為に参加したものに該ることはいうまでもない。
(4) 因みに、原判決は、本件争議行為によって被上告人らの本来の業務に支障がなかったから年休が成立するかの如くいうが、そもそも自ら所属する当該事業場における争議行為に参加することが、年休権の正当な行使とはいえないのであって、その結果、業務阻害がどの程度生じたかは、問題とされるべきものではない。結果の大小によってその原因となった行為の正否を判断しようとすることが不当な如く、後に生ずる業務阻害の大小によって年休の成立の有無を判断しようとすること自体、判断を誤っているのである。
九、前述したように、被上告人らは、直方自動車営業所に勤務する運転手であるが、組合直方班のいわゆる三役であって、本件争議行為が企画された後に、三人同時に本件年次有給休暇の請求をしたうえ、同営業所所長らによる警告等を無視して、同営業所構内で開催された職場集会等に参加し、シュプレヒコールの音頭を取るなど、これに積極的に参加し、これを指導しているのである。
なお、原判決により被上告人らは、時季変更権の行使があれば、これに従う意思を有していたかの如く判示されているが、前記一、二に述べたように、本件争議行為の内容等が具体化した後に被上告人らは三人揃って年休の申込みをし、しかも本件争議行為の前日又は当日に、争議行為に参加すれば「年休を取消して不参として取扱う」旨通知しているのに、敢えてこれを無視して参加しているのであって、到底、就労の意思があったなどと認定することはできず、原判決の判示は誤りである。
したがって、到底、これをもって年休権の正当な行使とすることはできない。
一〇、本件で、被上告人らの勤務時間内であるか否かが問題とされているので、これについて次に述べる(原審における<人証略>の証言等参照)。
(1) 被上告人らは、いずれもバス運転手である。バス運転のような業務は、一日に運行すべき種々の路線があるので、これを効率的に運行するために、運行に必要な路線に応じた乗務行路を設定し、乗務員をこの行路にそれぞれ配置することとしていた。また乗務員にとっては、勤務割り(勤務割表は、前月二七日まで作成され、公表されることになっていた)に基づき乗務行路が指定されることにより、日々の勤務時間や勤務内容が指定されることになる。したがって極端にいえば、同じ営業所に所属する運転手であっても、一人一人の運転手の勤務内容や勤務時間はそれぞれ異なるし、また毎日同じ勤務ということでもない。
(2) もちろん日々必要な行路を完全に運行するためには、その行路の数だけの運転手が配置されるだけでは足りず、ある程度の余裕を持った人数の配置が必要である。いうまでもなく、労働基準法上に必要な休日や休暇もあれば、病気等による休業もあるからである。突発的な病気や事故等によって、乗務が予定されていた運転手が欠勤しても、すべての路線を運行しなければならないので、これに備え、予備の運転手を待機させておくことも必要となる。本件当時、直方自動車営業所においては、日々、かなりの人数の運転手が、予備の勤務の指定を受けていた。
(3) 運転手の勤務時間や勤務内容は、勤務割表によって定められるが、その作成にあたっては、原則として、当日出勤が予定されている大部分の運転手に対し、前日までの勤務内容や勤務時間等を考慮の上、当日必要な乗務行路のいずれかに乗務するよう指定するが、そのような乗務行路の指定がなかった者は、当然、予備勤務に就くことになっている。乗務すべき者の勤務時間は、乗務行路の如何によって自ら定まることになるが、予備勤務者に就いては、直方自動車営業所では、本件当時、午前八時四〇分から午後三時五六分までとされていた。
換言すれば、被上告人らのような運転手にとっては、具体的な乗務行路を指定されたときに、その時点ではじめてその行路に応じた勤務時間が定められることになるが、乗務行路の指定が未だなされていないときは、予備勤務の勤務時間が本来の所定労働時間となるのである。したがって、いわばこれらの業務の所定労働時間は、基本的には予備勤務と同一であって、乗務行路の指定があってはじめて、それに応じた勤務時間の指定変更がなされるものということができる。
(4) また、勤務割によって乗務行路等が指定された後、何らかの理由で、その運転手が乗務しないこととなった場合には、その者に代えて当日の予備勤務者の中から特定の者を選んで、その者にその乗務行路の勤務を指定する。予備勤務者に乗務行路を指定すれば、その時点でその者がその行路に乗務すべき本来の勤務者となるから、仮に、予備勤務者に乗務行路を指定した後に、前に指定を受けていた運転手が勤務に復帰することになっても、従前指定されていた行路には、すでに他の運転手が乗務するよう指定を受けているので、復帰者はいずれの乗務行路の指定も受けていない者として、予備勤務に就くことになる。
年次有給休暇の場合もこれと同様である。即ち、勤務割が作成された後に、休暇であるとされると、その時点で勤務割が変更されて、本人は勤務から外され、代わって予備勤務者の誰かがその行路に乗務するよう指定されることになる。また、そのような変更の直後に、何らかの理由で年休とされた者が勤務に戻ることとなっても、既に従前指定されていた行路は他の運転手の乗務すべき行路となっているから、これに戻ることにはならず、復帰者の戻るべき勤務は具体的な乗務行路が指定されていない勤務、即ち予備勤務となるのである。
(5) 本件でいえば、被上告人ら三人から同時に八月五日の勤務について年次有給休暇の請求があったので、直方自動車営業所の管理者らは、被上告人らが乗務すべきとされていた行路について、それぞれこれを他の者が乗務するよう勤務指定を変更した(<証拠略>)。したがって、仮にその後同人らが勤務することとなっても、同人らの当日の勤務は、乗務行路の指定がない予備勤務となり、当初予定されていた一〇一行路や一五行路や一六行路などの勤務に戻ることは、更にその旨の行路指定の変更がない限り、有り得ないのである。また、同人らの勤務時間は、予備勤務のそれである午前八時四〇分から午後三時五六分までとなっているのである。
(6) したがって、本件当日、仮に被上告人らが勤務に就くことになれば、行路指定のない予備勤務である。原審などのいう行路指定のある勤務ではない。
一一、以上、述べたように、本件における被上告人らの年休行使は正当なものとして認められず、同人らは当日午前八時四〇分から午後三時五六分までの勤務に就くべきであるのに、これを欠いたのであるから、その賃金をカットした上告人の処置は正当というべきである。しかるに原判決は、労働基準法第三九条の解釈を誤り、先例とされるべき前記最高裁判決に従うことなく、被上告人らの本件年休行使を正当なものとし被上告人らの請求を認容している。したがって、右原判決の誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は取り消されるべきである。
第二点 原判決は公共企業体等労働関係法一七条、日本国有鉄道法三一条等の法令の解釈を誤る等の違法があり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、取り消されるべきである。
一、一審判決は、被上告人ら三名に対する本件懲戒戒告処分について、同人らは国労直方班のいわゆる三役の地位にあったものであるところ、本件ストの参加者(対象者)ではないものの、国労が昭和六〇年八月五日の時限スト決定をなした後である同年七月二四日、共に年休の申込をなして本件ストの日に本件年休を取得し、被上告人ら三名は、あるいは本件ストに先だち、所属組合員に対し、本件ストの際の職場集会参加を呼びかけ、あるいは本件ストの実施により直方自動車営業所における業務の正常な運営が阻害されること、また、本件ストと同時間帯に同営業所構内において開催された本件スト参加者を含む参加者約五〇名にのぼる職場集会や、同職場集会参加者による同営業所事務室内での暫時の滞室により、同営業所における職場規律がみだされることを了知のうえで、意思相通じ、当局の警告を無視して本件スト並びにその際の職場集会等を積極的に指導、支援、激励等をなしたものと認めるのが相当であるから、被上告人らの各行為は、少なくとも就業規則第一五号所定の「職務上の規律をみだす行為のあった場合」、同第一七号所定の「その他著しく不都合な行為のあった場合」に該当するとみるのが相当である、と判示して、いずれもこれを相当としている。
二、これに対し、原判決は、「上告人事業団は、被上告人らの本件年休の取得が正当な年休権の行使ではなく、したがって本件八月五日は勤務を要する日となるのに一日勤務しなかったとして不参とし、このことを理由として本件懲戒処分をしたものであることが認められる。」とし、「被上告人らの本件年休の取得は有効なもので、そうすると、被上告人らが不参(無断欠勤)とされる理由はないから、本件懲戒処分はその根拠を欠くものとして、無効であるといわざるを得ない。」としている。
三、しかし、本件懲戒処分は、右不参のみに限定されるものではなく、前記第一点中の一、二に述べたように、原判決の認定したところによっても、「被上告人小坂は、本件ストに先立ち、組合掲示板に八月五日には集会を行うので、勤務者以外の者は参加するべき旨のビラを掲出し、被上告人ら自身もストに際しての職場集会に参加した。直方自動車営業所所長は、同職場集会参加者に対し、ハンドマイクで集会を中止して構内から退去するよう警告を数回発したが、同職場集会参加者は、右警告を無視して午前九時すぎころまで集会を継続した。この間、被上告人らは、同集会の進行に重要な役割をした。更に、同集会参加者らは、同営業所二階事務室に上がり、同室内の会議室前付近から乗務員点呼場付近に集合し、同営業所所長の退去要求にも応ぜず、点呼等の業務に支障を生ぜしめた。また被上告人らは、当日は全く勤務をしなかった」のであり、前記就業規則所定の各行為があったからである。
ところで、原審における(人証略)が証言する直方自動車営業所福丸支所での取扱いから分かるように、国鉄労働組合内部の組織変更によって、直方分会が班組織とされた後も、その役員は、委員長・副委員長・書記長などと呼ばれて班の運営に当たっており、しかも本件のような争議行為が行われるときには、事前にその準備・打合せを行うとともに、その当日も、職場集会等に積極的に参加したうえ、その進行をはかるものである。また、現に、本件争議行為にあたっては、直方班(福丸班や博多班より組織も大きく中心的な組織である)の三役の地位にあった被上告人らは、前述のようにそれなりの役割を果たしたのである。
したがって、これらの点からすれば、少なくとも一審判決の認定するように、被上告人らの行為は、「当局の警告を無視して本件スト並びにその際の職場集会等を積極的に指導、支援、激励等をなしたもの」というべきである(原審における証言等を総合しても、これら認定事実からの判断を殊更変更する必要があるようなものは見当たらない)。
四、ところで、公共企業体等労働関係法(昭和六一年法九三号による改正前のもの)第一七条第一項は、「職員及び組合は、公共企業体等に対して同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。又職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、もしくはあおってはならない。」としているのであって、争議行為に際し、被上告人のような行動をすることは、各(ママ)公共企業体等労働関係法の禁止するところにあたり、日本国有鉄道就業規則(<証拠略>)第一〇一条第一号の「国鉄に関する法規、令達に違反した場合」、第六号の「ゆえなく職場を離れ又は職務に就かない場合」、第一五号の「職務上の規律をみだす行為のあった場合」、第一七号の「その他著しく不都合な行為のあった場合」に該当するものとして、日本国有鉄道法第三一条第一号により戒告等の懲戒処分を受けても止むを得ないものである。
したがって、被上告人各人に対する戒告を内容とする本件懲戒処分は、いずれも有効というべきである(なお、本件の争議行為に関連して、被上告人らと同様の行為が現認された福丸班の班長であった訴外塩田喜代範について戒告処分がなされる等違法行為の現認された者についてはそれなりの処分がなされている)。したがって、被上告人らが不参したことにより処分された旨の原判決の判断は誤りである。
因みに、仮に年次休暇中においても、争議行為に際して行われる職場集会に参加して挨拶をしたり気勢の音頭をとるなど、その進行の推進をはかることは、国家公務員法の禁止する争議行為の禁止規定に該当するものというべきであるとの最高裁第二小法廷昭和六〇年一一月八日判決(昭和五七年号(ママ)(行ウ)第七七号事件)がある。本件においても、この判決の判示しているところは、充分参考とされるべきものであり、被上告人らの所為は、違法争議行為に参加したものというべきである。
五、しかるに、原判決は前記のとおり、本件年休の取得は有効であることを理由として、本件懲戒処分は無効であるとしているのである。これは、右公共企業体等労働関係法や日本国有鉄道法の規定の解釈を誤ったか、経験則等の採証原則に反したかの違法があり、それは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は取り消されるべきである。
以上